我々が目の前にあるコップに手を伸ばすとき,大脳-脳幹-脊髄-末梢神経-筋へ運動の指令が伝えられます.この運動指令を伝えるルート(道)を錐体路といい,脳卒中などにより損傷されると上肢や下肢に運動障害が生じます.今回,筑波大学附属病院リハビリテーション科 岡本善敬 氏,茨城県立医療大学医科学センター 石井大典 助教,河野豊 教授,東京保険医療専門職大学 沼田憲治 教授らは,脳卒中患者の入院時の錐体路評価指標と退院時の運動機能との関係を調べ,上肢では錐体路評価指標と機能回復との間に関連が見られましたが,下肢ではそれらは見られないことを明らかにしました.この研究成果はJournal of Stroke and Cerebrovascular Diseases誌 (Relationship Between Motor Function, DTI, and Neurophysiological Parameters in Patients with Stroke in the Recovery Rehabilitation unit)に掲載されています.
研究概要
我々は、回復期リハビリテーション病院入院時の錐体路評価指標(拡散テンソル画像、経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位、中枢運動伝導時間)と退院時の運動機能の回復との関連を調べました.
方法
回復期リハビリテーション病院入院時に17 名の脳卒中患者 (平均:57.9 ± 10.3 歳)の頭部拡散テンソル画像を撮像し,Fractional Anisotropy(FA)を求めました.また,損傷半球および非損傷半球のFA比(rFA),運動誘発電位(MEP),および中枢運動伝導時間比(rCMCT)を求めました.そして,それらの入院時の錐体路評価指標と退院時の運動機能との関連をFugl–Meyer Assessment (FMA ) およびAction research arm test (ARAT) を用いて調べました.
結果
回復期リハビリテーション病院入院時の内包後肢の rFA 値が高いほど,上肢機能が回復しました (FMA: r = 0.78、p < 0.001; ARAT: r = 0.74、p = 0.001).また,入院時にMEP が記録された患者は,上肢機能の回復度が高いことがわかりました (FMA: p < 0.001; ARAT: p = 0.001).一方,入院時の錐体路評価指標と下肢の機能回復との間には関連が認められませんでした.
結論
入院時の錐体路の評価は,上肢機能の予後予測には有用ですが,下肢機能の予後予測には使用できないことが明らかになりました.また,上肢と下肢とで機能の回復過程に違いがあることがわかりました.脳卒中後の上肢・下肢のリハビリテーションにおいて,肢によって適切なアプローチ法が異なる可能性があります.
【掲載論文】
Okamoto Y, Ishii D, Yamamoto S, Ishibashi K, Wakatabi M, Kohno Y, Numata K.
問い合わせ先
茨城県立医療大学医科学センター
助教 石井大典(イシイ ダイスケ)
TEL :029-888-4000
E-Mail :ishiid@ipu.ac.jp
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