茨城県立医療大学 医科学センター 石井助教と東京女子医科大学との共同で行った研究が論文として公開されました.本研究は,半側空間無視のモデルマウスを作製し,その回復過程と損傷部位の関連を詳細に調べたものです.
半側空間無視は,脳卒中・外傷性脳損傷・脳腫瘍・外科的処置などの脳損傷後に発生する高次脳機能の障害で,損傷とは反対側(例:右脳損傷であれば左側)に提示された刺激に注意または応答することができなくなります.本症状を呈する患者は,脳の損傷部位が様々で運動麻痺をはじめとした他の症状を併せ持つことが多いため,半側空間無視の回復機序や訓練効果の評価が難しく,効果的な訓練が確立されていません.
そこで本研究は,
① 条件の統制が可能な半側空間無視モデルマウスを作製すること
② 症状の回復に影響する因子を探索すること(特に損傷部位の大きさと位置)
を目的に研究を遂行しました.
局所性脳梗塞は,光血栓法によりマウスの右内側無顆粒皮質(AGm)に作製し,半側空間無視の症状は全9回評価されました.
主な結果として,
① AGmの局所梗塞は,半側空間無視様の症状を引き起こすこと(自己中心性無視)
② 損傷が大きいほど,急性期の無視症状が重症であること
③ AGmの前方(吻側)を損傷した場合,回復が遅れること
がわかりました.
これらの結果は,半側空間無視様症状の回復には,前部AGm内の神経可塑性が必要であることを示唆しています.今後,本モデルマウスを用いてよりミクロな変化(回復を促進する)を同定することで,ヒトの半側空間無視に対する効果的な治療法の開発に貢献できると考えています.
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